頭痛について

日本人の約1/3は頭痛持ちだといわれています.

 ※本邦における一次性頭痛の有病率:

  片頭痛が人口の5〜10%,緊張型頭痛が人口の約20%

頭痛は多くの方が経験していますが,日常生活に支障をきたすつらい症状になることもあります.

その痛みを周囲に理解してもらえず,悩んでいる人は少なくありません.

頭痛外来では,ます,頭痛発生時期,痛みの持続期間,頻度,痛み方など   詳しい問診を行います.

必要に応じてCTなどの画像検査を実施し,その頭痛の診断を行います.

慢性頭痛について

  • 数年以上前から同じような頭痛を繰り返している頭痛
  • 大部分は生命の危険はない
  • 代表的な慢性頭痛=片頭痛と緊張型頭痛
  • 日常生活に支障があれば,脳神経内科,頭痛専門外来,脳神経外科などを受診してください
  • 難治性の慢性頭痛症 
  →生活習慣の改善,様々な治療薬や治療法を駆使
   頭痛による日常生活・仕事・家事・学業などへの    
   悪影響を最小限にする努力が必要

 ◎患者自身と主治医との共同作業です.

1)頭痛で医療機関を受診する目的

 ①正確な頭痛診断
  第一に,生命に危険が及ぶ可能性がある頭痛(二次性頭痛)を除外
  第二に,命にかかわることのない頭痛(一次性頭痛)の正確な鑑別診断を行います.
  ※一次性頭痛=緊張型頭痛,片頭痛,群発頭痛,薬物乱用頭痛,その他の頭痛など

 ②適切な治療

  • 頭痛の種類により治療方法が異なります.
  • 不適切な頭痛薬の服用を継続することにより,頭痛が悪化することもあります.
  • 不必要に鎮痛剤を我慢し,辛い生活を続けている方もいます.
  • 頭痛の原因や状態にあった治療が必要です.
  • 頭痛の治療は薬の内服だけではありません.
◎辛い頭痛の解消により快適な日常生活を取り戻しましょう!

適切な治療を継続することによりQOL(生活の質)が向上します.

2)主な頭痛薬

NSAIDs Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drug(s)(非ステロイド性抗炎症薬)
多くの鎮痛解熱剤が市販されている.バファリン,イブ,ロキソニン,ブルフェン,ボルタレン,カロナール,セレコックスなどがあります.
カロナールは厳密にはNSAIDsではなく,副作用が少なく,比較的安全です.

トリプタン(先発品名=イミグラン,マクサルト,レルパックス,ゾーミック,アマージ)
片頭痛の特効薬で,片頭痛以外には効きません.
セロトニンを増加させ,片頭痛の原因である血管拡張を抑制することにより,片頭痛発作が改善します.
トリプタン系製剤は,3割負担で先発品1200円弱,後発品160円程度です.原則として,片頭痛発症後,早期の服用を勧めています.
副作用はあまり多くありませんが,めまい,ふらつき,脱力,胸苦しさなどがあります.各種トリプタンの使い分けも必要です.

 片頭痛予防薬
月に2-3回以上片頭痛がある場合は予防薬を検討します.月5-6回を超える場合には片頭痛予防薬を開始します.
ミグシス・テラナス,インデラルなどの降圧薬(血管拡張薬)やデパケン・イーケプラ・トピナなどの抗てんかん薬が一般的です.
当院では呉茱萸湯や五苓散,加味逍遥散などの漢方薬を証に合わせて積極的に用いています.
必要に応じて,CGRP製剤も積極的に利用します.


頭痛の原因

  • 脳は痛みを感じない
  • 頭部で痛みを感じる部分
  •  =骨膜太い血管,硬膜,
  •  頭皮,頭部の筋肉脳神経, 
  •  上部頸髄神経など
  • これらの組織圧迫・牽引・炎症
  • 様々な頭痛が起こります

頭痛の治療を考える前に
生命にかかわる危険な頭痛の可能性はありませんか?
まず,頭痛の原因を検討しましょう
「一次性頭痛か,二次性頭痛か,またはその両方か」


3)頭痛外来の第1歩=二次性頭痛の鑑別

二次性頭痛とは脳や体に病気があって起こる頭痛で,くも膜下出血や脳腫瘍,髄膜炎など

脳の病気による頭痛です.

下記のような二次性頭痛を疑う症状がある時には,画像を含め積極的な検査が必要です.

頭痛のレッドフラッグ

①突然発症の頭痛(数秒以内にピークに達する)  今まで経験したことがない激しい頭痛  

③いつもと様子の異なる頭痛  ④頻度と程度が増していく頭痛   50歳以降に初発の頭痛  

言語障害や手足の麻痺や視力障害など神経脱落症状を有する頭痛 精神症状を有する頭痛

妊婦,癌や免疫不全患者の頭痛  ⑨発熱・項部硬直・髄膜刺激症状を有する頭痛

咳,労作性交息こらえで増悪,体位で変化する頭痛


薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)

MOH Medication-overuse headache

薬剤の使用過多による頭痛の特徴

元々:片頭痛や緊張型頭痛

現在:月に15日以上頭痛あり

頭痛薬を3ヵ月以上前から服用

月に10日以上服用

今まで効いていた頭痛薬が無効

鎮痛剤の服用回数増加




  • 有病率:全人口の12%,
  • 中年層に多い,女性が7割,
  • 慢性頭痛の2550%,
  • 発症リスク=女性・喫煙者・運動不足・低所得・低い教育歴
  • MOH の治療の原則 
 ①原因薬剤の中止
 ②薬剤中止後の頭痛への対処
 ③予防薬投与

  • 慢性片頭痛で薬剤使用過多CGRP 抗体関連製剤が有効.
  • MOHは1年以内に約3割が再発.
  • 離脱後も適切な助言,管理が必要


二次性頭痛:頭部打撲後

頭部打撲・頭部外傷後,意識状態に問題なく,前後の状況を理解

→大きな異常を生じることは少ない


画像検査が推奨されるとき

 ※骨折・出血はCT優先

  • 打撲・外傷前後に15分以上の意識消失 or 記憶障害
  • 打撲・外傷当日は問題なし,翌日以降に頭痛が持続
  • コンタクトスポーツ (ラグビー・サッカー・柔道・ボクシングなど) 後,頭痛が2日以上継続


「二度目の衝撃症候群 (セカンド・インパクト症候群)

 一度目の頭部外傷+二度目の軽い頭部外傷→急性の脳浮腫の可能性

二次性頭痛:頭部打撲後

  • 頭部外傷直後,数時間 or 翌日 以降,頚部痛が出現しやすい
  • 多くは,「むち打ち損傷」
  • 頭蓋内疾患の除外 
  →頭部の画像検査 推奨

  • 受傷後1-2週間の安静が望ましい(頚部痛遷延を防止)

  両手に荷物を持って移動,頚部後屈を継続,など避ける

  • 手のしびれが出現→頚部脊柱管狭窄症の可能性

  →頚部の画像検査 推奨


◎頭部外傷後の頭痛≠頭蓋内疾患


4)一次性頭痛の鑑別

頭痛が持病の「頭痛もちの頭痛」です.脳や体に病気がないのに、繰り返し起こる頭痛で,慢性頭痛,習慣性頭痛ともいわれます.
片頭痛と緊張型頭痛と群発頭痛が主な一次性頭痛です.
一人で複数の一次性頭痛を経験する方も少なくありません.片頭痛と緊張型頭痛と群発頭痛の3つを持っている方もいます.
それぞれの頭痛をしっかりと区別して,適切な治療を行うことが必要です.

緊張型頭痛について

頭痛とめまい

頭痛の原因の7~8割を占め,中高年に多い頭痛で,頻度は月に数回程度から毎日とさまざまです.

いつとはなしに始まり,だらだらと持続するのが特徴で,発作的に起こる片頭痛とは異なります.

後頭部から首筋にかけて両側性に痛むことが多く,頭全体やはちまき様に痛むこともあります.肩コリや顎関節症を伴うことが多く,圧迫感,緊迫感,頭重感が特徴です.体のだるさやふわふわしためまいを伴うこともあります.

緊張型頭痛の原因は,心身へのストレスにより,頸部や頭蓋骨周辺の筋肉にある血管が収縮することです.筋肉は同じ姿勢を保っていると緊張が続いて血流が低下し,酸素不足や疲労物質の蓄積により血管が収縮して神経が刺激され,痛みが生じます.

重い頭を支えている頭頚部・肩・背中の筋肉は疲労が蓄積しやすい場所です.スマートフォンやパソコンを長時間利用すると特に頭頚部・肩・背中の筋肉に大きな負担がかかります.精神的なストレスは自律神経に影響して緊張型頭痛を慢性化させやすいことも知られています.


緊張型頭痛の治療
ストレッチやトレーニングなどの運動療法,入浴,心と体の緊張を緩和するリラクゼーションが中心です.
外来では一緒に肩こり体操を行っています.
入浴はぬるめのお湯に長く浸かり,血行を改善させて痛みを緩和するよう指導します.


このような治療が無効な場合には筋弛緩薬やNSAIDs,漢方薬などの薬物療法を行います.
反復性緊張型頭痛には鎮痛薬が有効
鎮痛薬の飲みすぎに注意!:薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)に移行→頭痛悪化の可能性
  鎮痛薬は週に1-2日程度,月10回以下

片頭痛について

女性に多い頭痛で,たいてい月に1~2回程度,発作的に頭痛が起こり,72時間以内に治まります.

思春期頃から出現することが多く,60歳頃に終わります.最盛期は30歳代です.

片側のこめかみから眼のあたりに起こることが多く,4割の方が両側性です.

脈打つように「ズキンズキン」あるいは「ガンガン」と痛みます.

しばしば吐き気や嘔吐を伴い,片頭痛の最中は光や音,臭いに過敏となるので,片頭痛の間は暗くて静かな環境を好みます.  

「日常生活が続けられない」ほど頭痛が強く,寝込むこともあります.

階段昇降など日常的な動作により頭痛が増悪し,マッサージや入浴、体操で悪化します.

片頭痛の約2割は前兆を伴います.多くは「閃輝暗点」で,視界にチカチカした光が現れ,これが拡大していくにつれて,元のところは見えにくくなります.通常20~30分続き,前兆が終わると激しい頭痛が出現します. 

漠然とした頭痛の予感や,眠気,気分の変調などは前兆と区別して予兆といいます.

中等症以上の片頭痛は通常の鎮痛剤は無効なことが多く,トリプタン系薬剤が有効です.  

月2回以上片頭痛があるときには予防薬を検討します.

内服予防薬や非薬物療法を十分に行い,片頭痛急性期にはトリプタンを用いても,日常生活に支障がある場合は,CGRP関連予防薬を検討します.

片頭痛のフェーズと随伴症状

Blau JN. Lancet. 1992;339:1202–1207より改編

片頭痛の誘発因子・増悪因子

必ずしも各患者個人の頭痛発作の誘因ではない
精神的因子ストレスストレスからの解放疲れ睡眠の過不足
内因性因子月経周期
環境因子天候の変化温度差におい
ライフスタイル因子運動欠食性的活動旅行
食事性因子空腹脱水アルコール特定の食品

頭痛の自然史と予後

  • 反復性片頭痛患者の多くは,加齢に伴い改善
  • 年間約3%は慢性片頭痛に移行
  • 片頭痛の慢性化の危険因子
  ①介入不可能なもの
   先天的要因,女性,低所得,未婚など
  ②介入可能なもの
   過剰な急性期治療薬の使用,カフェイン摂取,肥満,
   他の疼痛症候群,頭頸部外傷,いびき,ストレスの多い生活

  • 危険因子に関する介入→予後改善に結びつく可能性

  • 片頭痛は経時的に悪化し、頭痛頻度が高まる可能性
  • 進展して反復性片頭痛から慢性片頭痛に移行(慢性化)
  • 片頭痛の慢性化は、1年間に約3%
  • 修正可能なリスク因子と修正不可能なリスク因子
  • 2年間に慢性片頭痛患者の約26%は反復性に移行

片頭痛の治療


1)急性期治療:頭痛発作の改善

  ① アセトアミノフェン NSAIDs 

  ③トリプタン/ジタン ④  制吐薬

 片頭痛の重症度に応じたstratified care(層別治療)推奨

2)予防療法

  血管安定作用(ミグシス,インデラル),

  痛みの緩和作用(トリプタノール),

  脳の安定作用(バルプロ酸)

  CGRP製剤

3)生活習慣改善

  食事,発作回避術

1)2)3)の組み合わせ→片頭痛に妨げられない人生

片頭痛の急性期治療


片頭痛の急性期治療の理想的なゴール

 副作用・副反応なく片頭痛発作を確実に速やかに消失→患者の機能回復

片頭痛急性期の治療は,薬物療法が中心
主な治療薬① アセトアミノフェン,② NSAIDs,③ トリプタン,
      ④エルゴタミン,⑤ 制吐薬
軽~中等度の頭痛にはNSAIDs
l中等~重度の頭痛 or NSAIDs無効例→トリプタン 推奨
l効果が不十分→NSAIDs+トリプタン併用
l制吐薬の併用は有用

l急性期治療効果:服用2時間後の頭痛の消失 or 明らかな軽減

トリプタンについて

・スマトリプタン(イミグラン)
  内服,点鼻,注射
 ・ゾルミトリプタン(ゾーミック)
  水なしで服用可能剤型
 ・エレトリプタン(レルパックス)
  ややマイルドな効果
 ・リザトリプタン(マクサルト)
  速効性
 ・ナラトリプタン(アマージ)
  持続性

服用のタイミング頭痛発作早期
(発症より約1時間以内)
◎作用機序
頭血管のセロトニン1B受容体
→血管収縮拍動痛を改善
三叉神経のセロトニン1D受容体
→血管周囲の炎症を起こす血管作動性物質(CGRPなど)の放出抑制

ジタン系

  • レイボー ®(ラスミジタン)
作用機序
  • セロトニン1F受容体に結合CGRP等の放出抑制
特徴
  • 服用24時間後も効果持続
  • 眠気・めまいの副作用
初回服用は眠
  • 4時間頭痛が改善
  • 昼間はトリプタン,夜はジタン系
  • 夜間,頭痛で目が覚めるは特に有効

群発頭痛について

頭痛とめまい

特徴

1)周期性:半年~数年に一度

2)連続性:群発期に入ると約1カ月の間ほぼ毎日出現

3)規則性:深夜から未明の決まった時刻に発症しやすい

4)重症の三叉神経症状:片眼を中心とした激烈な痛み

5)突然発症,短時間:急激に発症,15分~180分持続

6)自律神経症状:患側の目の充血・流涙,眼瞼腫脹・下垂,鼻閉・鼻汁

これらを伴う激しい片側性の頭痛で,他の頭痛とは全く異なる経過です.

現在ではTACs(三叉神経・自律神経性頭痛)の一つに分類されています.


群発頭痛について


飲酒により悪化します.

ニトログリセリン,抗ヒスタミン薬,過度な運動, 高温の環境等で悪化することもあります.

トリプタンと高濃度酸素が有効です.

在宅酸素は3割負担で2万円弱です.

ベラパミル(ワソラン®),ステロイド(プレドニン®)も予防効果があるとされていますが,その効果は限定的です.

最近,呉茱萸湯+半夏瀉心湯が有効な方がいました.

5)CGRP関連予防薬

片頭痛の発症機序:「三叉神経血管説」

片頭痛発症時に三叉神経よりCGRPが放出→CGRPを受け取った硬膜で炎症+血管拡張    →痛み・嘔気・眠気が出現

CGRPcalcitonin gene-related peptide:カルシトニン遺伝子関連ペプチド)は片頭痛発症に関与

・トリプタン:三叉神経からCGRPが放出されることをブロック

・エムガルティ、アジョビはCGRPをブロック.アイモビーグはCDRP受容体をブロック

1回または4週間に1回の注射薬で,3割負担で1本約13000円(エムガルティは初回2本

使用条件(厚労省ガイドライン)

   ・片頭痛発作が月に複数回以上発現,又は慢性片頭痛と診断.

   ・片頭痛が過去3か月以上,平均月4日以上

   ・従来の片頭痛予防薬の効果不十分,または副作用により継続困難.

   ・睡眠,食生活の指導,適正体重の維持,ストレスマネジメント等の非薬物療法と片頭痛発作の急性期治療を適切に行っても,日常生活に支障あり

  ⑤当院では3種類とも用いています.トリプタンが明らかに有効な方には,ほぼ全例有効でした.

    CGRP関連予防薬により片頭痛が8割改善し,休職する必要がなくなったと仮定して,月13000円の価値があるかを本人に検討してもらっています