多発性硬化症と視神経炎スペクトラム障害について

多発性硬化症(MS)について

MSは、英語名(Multiple Sclerosis)の頭文字をとった略称です。   

症状を現す原因となる病巣(脱髄斑)が大脳や脊髄などの神経組織に、いくつも、あちこちに散らばって、次々に出現したり消失したりする病気です。 
どこに病変ができるかによってさまざまな症状が起きます。 
伝染する病気ではありません。 

l空間的多発性及び時間的多発性を満たす中枢神経系脱髄疾患のうち「原因不明」のもの
 :Schumacher Criteria
l中枢神経系の慢性炎症性脱髄疾患
・自己免疫学的な機序が病態に関与
・MSの診断:特異的なマーカーがない→鑑別診断が重要

l特徴:空間的・時間的に病変が多発(DIS+DIT

疫学

20〜40代に多く、男性よりも女性に多く発病

アジア人より欧米人に多い病気です。

緯度の高い地方に多く、日照時間との関連が指摘。

国内患者数は約17,000人で、毎年700人以上新しく発病

2000年代半ばに病因論的自己抗体として抗aquaporin 4抗体が発見

MSの約1/4NMOSD

2014年を境に難病法へ移行→欠測値

2019年度に全国疫学調査→患者総数は増加

発症の原因

私たちの体は、免疫によってウイルスや細菌などの外敵から守られています。MSは、免疫が何らかのきっかけで自己のミエリンを外敵と見なし、攻撃することによって起こるのだと考えられています。そのきっかけが何かははっきりしておらず、いくつかの要因が関与しているとされています。 

症状

ミエリンが壊された部位によって症状が決まります。

その部位は人によって違うため、症状はひとりひとり異なり、脳・脊髄、視神経のどこにでも起こり得ることから、非常に多くの症状があります。

時期により、日ごと・時間ごとに変化します。

よく見られる症状は、視力障害、感覚障害、運動障害、しびれ、疲労、排尿障害、ふるえ、物忘れなどで、程度も人それぞれです。体温が上がると一時的に症状が悪くなることがあります。


・MS =脳・視神経・脊髄と広範な中枢神経系に病変が存在
・視力障害、運動・感覚障害,歩行障害など様々な症状
・特徴的な症状:疾患特異性はない
・ウートフ現象(Uhthoff‘s phenomenon)・有痛性強直性痙攣 
・レルミット徴候                                                    
・MS の病型=再発寛解型,二次性進行型,一次性進行型,CIS  :それぞれの病型に活動性と進行性の有無が加味される

※図はTrapp BD et al. Neuroscientist 51):48-57, 1999 より改変

診断方法

詳しい診察と複数の検査をおこない、総合的に判断して診断されます。検査には、MRI検査、誘発電位検査、髄液検査などがあります。

中枢神経系脱髄疾患の診断アルゴリズム

多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン 2023より

多発性硬化症の検査所見
・脳MRI:白質を中心に多巣性の病変
 ・深部白質や皮質下白質,皮質や視床・大脳基底核などの灰白質にも出現
 ◎MSに特徴的なMRI 所見
ovoid lesion,Dawson’s finger,open-ring enhancement
central vein sign,paramagnetic rim など
・脊髄MRI:1椎体以下の病変が中心.2 椎体以上は少ない
横断像では側索と後索領域に病変,全面積の半分以下が多い
・髄液検査:OB,IgG index上昇など

・ニューロフィラメント(CSF,血液中)

※図はRuth Geraldes, et.al  Nature Reviews Neurology  14, 199–213 (2018)より引用

治療方法

急性期治療  = 炎症を鎮めるために副腎皮質ステロイド薬を使った治療が中心です。

       症状が重い場合には、血漿交換療法や免疫吸着療法が追加される場合もあります。
       痛みやしびれ、排尿障害などの症状は、薬である程度軽減することもできます。 

再発予防治療 = オファツマブ,ナタリズマブなどが使われます。効果は人によって違います。

再発寛解型MSの治療アルゴリズム 

多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン 2023より

・従来:escalation therapy
 長期安全性の観点→ベースライン薬で開始:IFN GA

  効果不十分→第二,第三選択薬(強い治療効果)に切り替え

・近年:early intensive therapy(High-Efficacy Therapy)

 オファツマブやナタリズマブなどの有効性の高いDMDで,最初から開始 

escalation therapy では,DMD の効果を最大限に発揮できる機会を逃す可能性

→予後不良患者は,有効性の高いDMD から開始

多発性硬化症の再発予防治療の進歩(DMD
DMDの歴史
IFN皮下注:再発減少(進行抑制なし),多くの副反応,
フィンゴリモド・フマル酸ジメチル内服:再発抑制+進行抑制,副反応
オファツマブ・ナタリズマブ注射:確実な再発抑制,進行抑制,わずかな副反応
早期発見・早期治療→障害のない,通常の社会生活が可能
長期予後を意識した治療戦略のパラダイムシフト:

 安全性を重視したescalation therapy

 →病初期から効果の高い薬剤を選択(induction therapy

今後の見通し

MSの経過は様々で、誰にも予測できません。何年も安定して普通の生活を送っている人もいれば、年に1回程度悪くなる人、いつの間にか徐々に歩きづらくなっていくような人などがいます。海外の統計では、早期治療によって良い状態をより長く維持できることが示されています。 再発はストレス、風邪、過労、出産などが引き金になることが多いようです。病気が安定している時は、過労がたまらない程度の運動をして、休息を取ることが大切です。 

MSの経過は様々で、誰にも予測できません。何年も安定して普通の生活を送っている人もいれば、年に1回程度悪くなる人、いつの間にか徐々に歩きづらくなっていくような人などがいます。海外の統計では、早期治療によって良い状態をより長く維持できることが示されています。 再発はストレス、風邪、過労、出産などが引き金になることが多いようです。病気が安定している時は、過労がたまらない程度の運動をして、休息を取ることが大切です。 



視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)について

NMOについて

Neuromyelitis Optica(視神経脊髄炎)を略してNMOといいます。 これまで日本では、病巣が視神経と脊髄に限るMSを「視神経脊髄型MS」としてきましたが、このタイプの大部分がNMOだということがわかりました。 NMOは、重度の視力障害と、長い病巣を持つ脊髄炎、そして血中に「抗アクアポリン4抗体(抗AQP4抗体)」があることが特徴です。MSとは治療法が異なります。

NMOSDに関する診療環境の最近変化

AQP4 抗体陽性視神経炎に対する急性期治療としてIVIg の認可
再発予防の生物学的製剤として,エクリズマブ,サトラリズマブ, イネビリズマブ,リツキシマブ,ラブリズマブの認可

MOG 抗体関連疾患(MOG antibody-associated diseaseMOGAD)の概念の確立と診断基準の公開

NMOSDとは

視神経炎と脊髄炎を中核とする中枢神経の自己免疫性疾患

→疾患概念の変化:AQP4 抗体が病態に関与する疾患

【2015NMOSD国際診断基準

AQP4抗体陽性=主要臨床症候(視神経炎、急性脊髄炎、脳症候群)1
AQP4抗体陰性=主要臨床症候(視神経炎、急性脊髄炎、脳症候群)2つ以上

  空間的多発やMRI所見などの条件+他疾患の除外,複数の疾患群で,一部は抗MOG抗体陽性  

AQP4抗体→自己免疫的機序でアストロサイトが主として破壊

NMOSDの臨床像

1)視神経炎

高度視力低下:

 両側性が多い

 急性発症(23日以内

 重症 (視力0.1↓~失明)

視野異常:

 中心暗点:視野の真ん中が見えにくい

 両耳側半盲:視交叉病変

 非調和性同名性半盲:視索病変

 水平性半盲

色覚異常:色が判りにくい(特に赤と緑)

眼の痛み:眼を動かすと眼窩深部の自発痛

羞明:まぶしい


2)脊髄炎

・横断性脊髄炎が多い

・重症の運動麻痺,感覚障害,膀胱直腸障害を呈することが多い

・回復期には有痛性強直性攣縮や疼痛などの難治性感覚障害を認めやすい.


・MRI

  脊髄中央部に3椎体以上連続する髄内T2 高信号病変

  慢性期には脊髄萎縮


3)脳病変

最後野症候群

難治性吃逆:

 時に数日~数週間持続

・嘔吐(悪心)


間脳・視床下部病変

過眠(二次性ナルコレプシー)

・抗利尿ホルモン分泌異常症:尿崩症

・高プロラクチン血症

・嚥下障害  ・呼吸不全

・複視    ・構音障害

大脳病変

意識障害・痙攣 ・片麻痺 ・同名半盲

NMOSDの検査所見

80%で血清AQP4 抗体が陽性
20%に自己免疫性疾患の合併,様々な自己抗体が検出
脳脊髄液:
 ・急性期に細胞数増加(>50/mm3
 ・glial fibrillary acidic proteinGFAP上昇
 ・OB の陽性率は1020%,IgG index 上昇も少ない
視機能検査
 ・視力,視野,眼底(視神経炎では異常なし), 
 ・中心フリッカー測定,光干渉断層計検査(OCT,網膜の厚さを測定)
・神経生理学的検査:感覚器に刺激→中枢神経までの経路の異常を検出
  VEP, ABI, SEP, MEP

MRI

視神経MRI

 視神経50%以上のT2高信号病変

 造影病変.しばしば視交叉病変あり.

MRI
 T2/FLAIR 高信号病変を第三脳室周囲,

 第四脳室周囲,中脳水道周囲,延髄背側(最後野)に認めることが多い.

 脳梁病変:marble pattern arch bridge pattern

 広範な浮腫性の大脳白質病変,長径が3㎝を超える腫瘤様病変など

脊髄MRI
 脊髄中央部に3椎体以上連続する髄内T2 高信号病変,慢性期には脊髄萎縮